チック
1.チック症とは?
チックとは、突然起こる、速く繰り返される 動きや発声のことです。 幼児期から学童期にみられることがあり、 症状の種類や強さは変化します。
代表的なものには、まばたき、顔をしかめる、 首を振る、咳払い、鼻を鳴らすなどがあります。
チックは、しつけの問題でも、 本人がわざと行っている行動でもありません。 一時的に我慢できる子もいますが、 我慢には負担がかかることがあります。
チックの症状は良くなったり悪くなったりし、 成長とともに軽くなるお子さんも多くいます。 ただし、経過には個人差があります。
2.チックの種類と分類
チックは「運動性チック」と「音声チック」に 大きく分けられます。
体の動きとして現れる症状
- 頻繁なまばたき
- 顔をしかめる
- 首を振る、肩をすくめる
- 体をひねる、飛び跳ねる
- 特定の動作を繰り返す
声や音として現れる症状
- 咳払いを繰り返す
- 鼻を鳴らす
- 「んっ」などの声を出す
- 特定の言葉を繰り返す
- 他人の言葉を繰り返す
症状の持続期間による分類
| 分類 | 特徴 |
|---|---|
| 暫定的チック症 | 運動性または音声チックが出現してから1年未満 |
| 持続性運動性または音声チック症 | 運動性か音声のいずれかのチックが1年以上続く |
| トゥレット症 | 複数の運動性チックと1種類以上の音声チックが 経過中にみられ、最初の出現から1年以上経過している |
※分類はDSM-5-TRの考え方に基づく概要です。 正式な診断には、発症年齢、症状の経過、 他の疾患や薬剤の影響なども確認します。
3.チックの原因は?
チックには、脳の運動や行動を調節する神経回路の働き、 神経伝達物質、遺伝的な要因などが関係していると 考えられています。
疲労、緊張、興奮、睡眠不足などによって 症状が目立つことがありますが、 ストレスだけが原因というわけではありません。
「育て方が悪かったのでは?」 と心配する必要はありません。 保護者のしつけがチック症の原因ではありません。
4.家庭や学校での接し方
チックへの対応で大切なのは、 症状そのものを無理に止めようとするのではなく、 お子さんが安心して生活できる環境を整えることです。
家庭で心がけたいこと
- チックを繰り返し指摘しない
- 無理に我慢させない
- 十分な睡眠と休息を確保する
- 好きな活動や遊びの時間を大切にする
- 症状よりも本人の困りごとに目を向ける
学校で配慮してほしいこと
- チックを理由に叱責しない
- 必要に応じて休憩を認める
- 周囲のからかいや誤解を防ぐ
- 本人の希望を確認して配慮を決める
- 集中しやすい学習環境を検討する
「またやっている」「やめなさい」 「我慢できるでしょう」など、 本人を責める言葉は避けましょう。
チックに気づいていても、本人が困っていなければ あえて話題にしない対応がよいこともあります。
5.小児科を受診する目安
チックがあっても、生活に困りごとがない場合には、 経過観察を選ぶことがあります。 一方、次のような場合には相談をおすすめします。
受診をおすすめする場合
- 症状が長期間続いている
- チックの種類や回数が増えている
- 本人が症状を気にしている
- 学校や友人関係に支障がある
- 首や肩などに痛みが出ている
- 不注意、こだわり、不安なども気になる
早めの評価が必要な場合
- 突然、激しい動きが始まった
- 意識が途切れる、反応がなくなる
- 転倒やけがを繰り返す
- 急激に行動や精神状態が変化した
- 自分を傷つけるような動きがある
意識障害やけいれんが続く場合などは、 チックとは別の緊急疾患の可能性があるため、 速やかな医療機関への相談が必要です。
受診前に準備するとよいもの
症状がいつから始まったか、どのような場面で 目立つかを整理しておくと診察に役立ちます。 可能であれば、本人の負担にならない範囲で 短い動画を撮影しておくことも有用です。
6.チック症の治療
治療を考える際に最も大切なのは、 チックの回数だけでなく、 お子さんの日常生活への影響です。
症状が軽く、本人が困っていない場合には、 病気について正しく理解し、 家庭や学校で環境を調整しながら経過をみます。
薬物療法
チックが強く、痛みや学校生活への支障、 強い心理的負担などがある場合には、 薬物療法を検討することがあります。
目標は症状を完全になくすことだけではなく、 症状による負担を軽減し、 日常生活を送りやすくすることです。
7.アリピプラゾールによる治療
薬物療法の選択肢アリピプラゾールは、脳内のドパミンなどの働きを 調整する薬です。 海外の研究などで、チック症状を軽減する 効果が報告されており、治療選択肢の一つです。
日本では、統合失調症などのほか、 小児期の自閉スペクトラム症に伴う 易刺激性に対して承認されています。
日本ではチック症自体はアリピプラゾールの 承認された効能・効果に含まれていません。 チック症への使用は適応外使用となります。 診療では必要性、期待される効果、 副作用、費用や保険上の取扱いについて 個別に説明したうえで判断します。
期待できる効果
- 運動性チックの軽減
- 音声チックの軽減
- 症状に伴う生活上の負担の軽減
気をつけたい副作用
比較的よくみられるもの
- 眠気
- 体重増加、食欲の変化
- 落ち着かなさ、そわそわ感
- 吐き気などの消化器症状
注意が必要なもの
- 手足の震え、筋肉のこわばり
- 強い落ち着かなさ
- 血糖値など代謝への影響
- まれに重い副作用が生じることがある
治療中は効果だけでなく、眠気、体重、 食欲、身体の動き、精神状態などを確認します。 必要に応じて採血なども検討します。
服用量は年齢、体重、症状、副作用などに応じて 医師が個別に判断します。 自己判断で増減・中止しないでください。
薬を使うこと自体が目標ではありません。 お子さんにとって治療の利益が負担を上回るかを ご家族と一緒に考え、 必要最小限の治療を目指します。
8.チック症とADHD・強迫症
チック症のあるお子さんでは、 注意欠如・多動症(ADHD)や 強迫症(OCD)などが併存することがあります。
チックそのものよりも、併存する症状によって 学校生活や家庭生活に困りごとが生じる場合もあります。
注意欠如・多動症
次のような特徴がみられることがあります。
- 忘れ物や不注意が多い
- 集中を保ちにくい
- 落ち着きがない
- 順番を待つことが苦手
- 衝動的に行動する
チックの有無だけでADHDとは診断できません。 学校と家庭の様子を確認し、 必要に応じて評価や支援を行います。
強迫症
次のような症状がみられることがあります。
- 汚れや細菌を過度に心配する
- 手洗いや確認を何度も繰り返す
- 決まった順番に強くこだわる
- 不安を打ち消すための行動を繰り返す
- 行動をやめたくてもやめにくい
強迫症には認知行動療法など、 チックとは異なる治療が必要になることがあります。
チックと強迫症はどう違う?
チックは、体のむずむずした感覚や 動かしたい衝動に伴うことがあります。 一方、強迫行為は、怖いことが起こるのを防ぎたい、 不安を減らしたいという気持ちに伴うことがあります。
ただし、両者の区別が難しいこともあり、 丁寧な問診が大切です。
チックだけでなく、不注意、落ち着きのなさ、 強いこだわり、不安、睡眠の問題などを 一緒に確認することで、 お子さんに必要な支援が見つかりやすくなります。
9.よくあるご質問
Q.チックは自然に治りますか?
成長とともに軽くなるお子さんは多くいます。 ただし、症状が長期間続く場合もあるため、 生活への影響をみながら経過を確認します。
Q.注意するとチックは治りますか?
叱ったり、繰り返し注意したりしても 根本的な改善にはつながりません。 本人の負担が増えることもあるため、 安心できる環境づくりを心がけましょう。
Q.テレビやゲームが原因ですか?
テレビやゲームがチック症の直接の原因と 証明されているわけではありません。 ただし、興奮や疲労、睡眠不足によって 症状が目立つことがあります。 生活全体のバランスを整えることが大切です。
Q.薬は必ず飲む必要がありますか?
いいえ。チックがあっても生活に支障がなければ、 薬を使用しないこともあります。 治療の必要性は本人の困りごとを中心に判断します。
Q.トゥレット症は重症という意味ですか?
必ずしもそうではありません。 トゥレット症は症状の種類と持続期間に基づく 診断名です。症状の重さや生活への影響には 大きな個人差があります。
Q.ADHDの治療薬でチックは悪化しますか?
すべてのお子さんで悪化するわけではありません。 ADHDの治療による利益と、 チック症状の変化を個別に確認しながら 薬剤を選択します。
参考資料
- 日本小児神経学会監修 『小児チック症診療ガイドライン』 診断と治療社、2024年。
- 日本小児神経学会 「チックの症状について」「チックの治療について」 日本小児神経学会
- CDC, Diagnosing Tic Disorders. CDC公式情報
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA) アリピプラゾール電子添文 医療用医薬品情報検索
本ページは一般的な医療情報の提供を目的としており、 個別の診断や治療方針を決定するものではありません。
